理想と現実

あまりにも完璧すぎる設計です  これでは落ち着いて料理ができないのでは
あまりにも完璧すぎる設計です  これでは落ち着いて料理ができないのでは

新築の設計をしている時は、施主は誰しも夢と理想の虜になっています。頭の中は、ああして、こうして、こうなってと、夢を描いているはずです。本人達は控えめに話していることが多いですが、設計者側からすると、その夢の大きさをまざまざと感じます。時には、脹らみすぎた夢を少しずつ現実に引き戻さざるを得ないこともあるほどです。

 

そうした夢と理想は、まず法規と予算という大きな壁にぶち当たり、はかなくも消え去る物もたくさんあります。まぁ、やむを得ないでしょう。出来るだけ近い物を代案で提案し、実現させるように努力はしていますが、落差は大きいようです。そんな時は、申し訳なさでいっぱいになります。奥様に涙を流されてしまったこともありますが、あまり良い気分ではありません。でも、実現できないこともあります。

 

さて、夢が実現しても、今度は現実という壁にぶち当たります。実は、この方が大変です。完成した夢と理想が、少しずつ蝕まれていく感じです。

純白の台所カウンターは、常に汚れとの戦いで、腫れ物に触る感じでストレスが溜まります。頭の中ではきれいに整理された居間の家具類でしたが、引越しが完了すると、行き場のない小物があふれてきて、卓上や部屋の隅々を覆って行きます。きれいに塗装されたシミ一つ無い壁ですが、カレンダーや時計すら掛けられなくて困っています。ちゃんと寸法を考えたクローゼットの棚ですが、やっぱり捨てきれなかった道具類があふれています。

もっとかわいそうな現実もありました。苦労して親子二世帯住宅にリフォームしたけど、完成してすぐに息子夫婦は福岡に転勤。とうとう何年も住むことが無く、空き家になってしまいました。

 

私は、そんな現実を何十件となく見てきました。なので、事前に少しずつ夢を壊しておくようになったのです。最初から、現実で設計するように誘導していきます。何か、設計が楽しくないようにも思えますが、決してそんなことはありません。住宅の真価は住んでからです。住みはじめてしばらくしてから、ムクムクと生活の楽しさが込み上げてくれば大成功です。

そんな住宅を設計できたとき、夢を叶えてあげられた、としみじみと思います。