引戸の効能

巾1.2mの3枚引戸  上吊りレールなので、下には何もありません
巾1.2mの3枚引戸  上吊りレールなので、下には何もありません

私は引戸が好きで、自分の設計物件でもよく使っています。障子、フスマ、板戸、ガラス戸などいろいろな引戸がありますが、素材は何であっても開き戸より、引戸の方が好きです。引戸は日本の伝統です。もちろん諸外国にも引戸は多く存在していますが、これほど多様に使い分けがされ、幅広く使われているのは日本だけです。その意味でも日本固有の文化と言って良いでしょう。

 

日本の引戸は、襖に始まります。襖という漢字は、平安時代のついたてから始まった物で、広い部屋を仕切るのに、絵柄の描かれたついたてが使われ、その影で寝たり、着替えたり、自分一人の空間を作り出したりしていました。源氏物語にも多く登場しています。その後そのついたてである襖はより可動性を求めて、溝で作ったレールの上を滑らせて使われるようになり、現在のフスマへと発展して行きました。

当初は、紙製で表面に絵柄を描いたりしていましたが、やがて板製の板戸、格子状に作った格子戸、格子の間に紙を貼った障子戸、下半分が板で上が紙や障子の腰板戸など多様に変化して行きながら現代にまでつながっています。

 

開き戸であるドアーも日本にはありましたし、アジア全域で見ることができます。でも引戸が主流なのは日本だけです。

引戸の良さは、その可変性にあります。つまり、開け放しておけば一室になり、閉めれば個室にある。当初の襖の役割が、空間を可動的に仕切る目的であったそのDNAが、そのまま生き続けているところです。なので、日常的には開放的、でも場合によっては個室になる。いわゆる可動壁の役割が出来るところが一番の効能です。

更に、ドアーはバタン!と閉じてしまうと極めて閉鎖的で、「もう、入ってこないで!」と言っている感じですが、引戸だと何となく隙間から覗けそうで、「ちょっと、一人にさせて置いて」とでも言っている感じで、区画の仕方がソフトです。これも引戸のすばらしい効能だと思います。

 

最近の引戸は、レールも鴨居も小さくて目立たず、特に上吊りレールだと下には何も無く、建具があるのやら無いのやら、非常に開放的です。動きも軽いし、取っ手の出っ張りもない。多くの外国人建築関係者が驚く、優れた建具です。こんなに精度が高く滑らかな引戸を作れるのは日本だけです。

世界遺産、にはなりませんが、日本の優れた文化として、引戸は長く使い続けたいと思います。